2016/07/31
新しい店舗で取り組む3つのコト。
数年間、あちこち駆けずり回って探し続けた新しい恋人は、ずっと前から近所に住んでた高嶺の花のあの子でした。結納金も、お支度代も、これまでの自分のスケール感を遥かに超える見積です。
ご両親は、大徳寺の前で400年続く老舗のご主人です。
幸い、この地で商いをして10年以上、初めましての関係ではなかったので、「良縁だ」と喜んでくださっています。
30ページの事業計画書を携え金融機関を回り、なんとか目標の支度金を工面し、いよいよ12月の披露宴に向けて動き出しました。
新事業のポイントは3つ。
・職人の手を経た本物の商品を提供する
・手仕事の技術を集積し、後世に伝える
・お客様のハレの日を美しく演出する
この3つの経営理念をさらにダイエットさせて核心を抜き出した、
・本物の提供・技術の継承・ハレの演出
です。
これを体現するための組織であり、店舗であるべし。
【本物の提供】
工房が2階にあるということは、作ったものをすぐにお客様に提供できるということ。
お客様から要望があれば、すぐに2階から職人が直接対応することができるということ。
むしろ、お客様に職人が作っている様子を見ていただける。
この地で、人が手を動かし、目の前で出来上がっていくという事実は、どんな優秀な販売員の語りよりも説得力があるはずです。
また、日本にはまだまだ素晴らしい職人さんがたくさんいます。
そういう方々と一緒に作り上げた本物を、見て感じていただける場にもしていきます。
【技術の継承】
後継者育成という、伝統工芸の抱える最大の課題。
いつまでたっても答えが出ないのは、単純に「食えない」からです。
伝統工芸に携わりたい若い人たちってのは、案外少なくないもんで、後継者が不足しているのではありません。
単純に、食えない、食わせられないのです。
伝統工芸の製造業というのは、古くから流通がある程度決まっていました。
職人→メーカー(産地問屋)→問屋→小売→お客様
当然、職人さんに入ってくるお金は、決して多くありません。
ただ、産地問屋さんが職人さんの工賃を担保し、問屋さんが小売さんへの在庫を担保し、小売さんがお客様にたいしてしっかりと販売してきました。
需要があった頃は流通が確かに機能し、職人さんは贅沢は出来ないにしても口を糊することはできました。
しかし、右肩下がりの今の時代に、後継者を雇い入れる余裕はありません。
若い人たちも、夢や熱意だけでは食べていけず、夢が覚め、熱が冷めたときに希望が絶たれ、残るのはお互いの徒労感のみ。
「食わせられる」ようにするには、
職人→お客様
これです。
職人が直接届けることで、若い人たちに払う給料を確保するしかない。
もちろん、在庫のリスクや販管費の負担など、コトは単純ではないしそれらを背負う覚悟は必要です。
もう、その覚悟はできています。
15年前までなら途方も無い話でしたが、インターネットが全てを変えました。
その歴史的インフラのイノベーションの黎明期に商いを始めた自分は、奇跡的なほどにラッキーです。
後継者を育てるための仕組みとして、新たに教室事業を興します。
技術を教えるコストを収益に転換し、人材を確保します。
それらを定期雇用するのではなく、好きなときに好きな時間、好きな量を工房に通って作ってもらい、出来上がったものを出来高で買い取ることで、技術がお金になることを示します。
スピードとクオリティが上がれば時間当たりの給料も上がっていきます。
伝統工芸が、「食える」仕事になることを証明して見せます。
この仕組を、「職方」と定義しました。
職方事業は、今回の新規事業の核とも言える事業です。
最終的には、つまみ細工を地場産業にしたいのです。

【ハレの演出】
つまみ細工を因数分解していくとその核として残るのは、「飾る」ということ。
飾ることで腹が膨れるわけでも、寒さがしのげるわけでも、生活が便利になるわけでもありません。
得られるのは、ハレです。
店舗は、非日常の場にします。
お客様は、きれいな髪飾りがほしいのではなく、きれいな自分を求めています。
その日、自分をいちばんきれいにしてくれるハレの髪飾り。
それを演出するのが、我々の仕事です。
職人及び販売員はゲストをハレの場に導くキャスト、店舗はそのステージです。ハハッ。
「飾る」ことは人間のみならず、生物の本能です。
現在の店舗は「ケ」の設えですが、新店舗は「ハレ」の場に作りこみます。
そして、ハナレ。
ここでは、体験・教室・WS・ギャラリー、そして京都のハレとケを体験していただく場にします。
いつもの日常を離れ、少しだけ特別な、非日常の中の日常を楽しんで貰える場所。
弊社にとっても、あらゆる実験の場でありたいと考えています。
あと一つ、この建物でやりたいことがあります。
非日常の日常を体験するための、単純で難しい答えとは。
それはまた、期が満ちた時に。